海とわたしの境界が消えた日
ヤドリ浜の浜辺に、素足で立っていた。
目を閉じて、ただ自然を感じる。
風の気配、波の音、太陽のぬくもり。身体の感覚だけが静かにひらいていく。
しばらくして目を開けたとき、海は柔らかく、透き通っていた。
その光景に圧倒されて、わたしは暫く動くことができなかった。
海と、わたしは一体だった。
そう感じた。
理由はわからない。
でも、確かにそうだった。
見ているのか、見られているのかもわからなかった。
境界が、なかった。
海に取り込まれているようでいて、同時に、自分の内側に触れていた。
気づけば涙が溢れていた。
頬を伝う涙は、海と同じようにしょっぱかった。
カメラは少し離れた場所に置いてある。
取りに行けば、この光景を残すことができる。
それでも、動けなかった。
ただ、立ち尽くしていた。
その場に在ることしか、できなかった。
魂は、どこか遠くにあるものだと思っていた。
上空から俯瞰するように、自分を見ている存在のようなものだと。
でもあのとき感じたのは、まったく違う感覚だった。
もっと静かで、もっと近い。
どこかにあるものではなく、すでに、ここに在るもの。
自分の中心に、ただ在るもの。
それに、触れていた。
ハンモックに揺られながら、余韻の中にいた。
キラキラとゆらめく水面を、ただ眺めていた。
その光が、自分のこれからの姿のようにも見えた。
そう在れたらいい、ではなく、そう在るのだと思った。
あのとき感じたものを、うまく言葉にすることはできない。
言葉にした瞬間に、もう少し違うものになってしまう。
それでも、確かに触れた感覚がある。
それはどこか遠くにあるものではなく、自分の内側に、静かに在るものだった。